移動術でコラム07 [コラムTOP]

注:ここでいう「移動術」はParkour、Freerunnig、Art du Deplacementの全てをさします。

【運動と精神】

一般的にも身体運動が人間の精神/心理に良い影響をあたえることはよく知られている。

その影響にはざまざまな要因があるが、まず経験による影響が考えられる。自分自身の能力や目標を客観的に捉えること。自分には何ができて何ができないのかを知り、そしてどう成りどう在りたいのかを明確にすること。また成功/失敗経験や他者との関係、自分自身の成長を実感すること。これらの経験は何かをなしとげようとする際の自信や意欲、自制心を生むことになる。

他には運動による生理学的な反応の影響も考えられる。ひとつは体温が上がることで精神的に安定するとされることである。つまり運動前の身体的なウォーミングアップは精神的にも効果があるのだ。
また運動による脳内の反応が精神(脳)に影響をあたえている。そのメカニズムは明確になっていないが不安やストレスを軽減する物質の分泌が促され、血流量の増加により脳が活性化するとも言われている。ただこういった物質が過剰に分泌されると精神に悪影響を及ぼすことがあるため「適度な」運動であることが必要である。

最後に、運動が精神に良い影響をあたえるといっても運動をすること自体がストレスになっては本末転倒である。運動に限らないことではあるが、能動的であること、そして楽しめるということが最も重要なのではないだろうか。

(2012/10/20)


【精神について】

移動術における精神的な理念について考えてみる。
まずここで言う「精神」とは何なのかを明確にしておきたいと思う。日本語の「精神」という言葉はさまざまな意味を持つが、ここでは「精神力」つまり何かをなしとげようとする際の精神的な能力で、意志/意欲/判断力など一般的なスポーツでよく言われる「メンタル」に近いものである。

また、Methode Naturelleではエネルギー的意義として以下のものがあげられているが、ここでの「エネルギー」という言葉はそのまま「精神力」と置き換えられるだろう。

【エネルギー的意義】
 エネルギー、意志力、勇気、冷静さ、堅固さ

以上をふまえた上で移動術における精神的な理念は「移動術を通して強い精神力を身に付ける」ことであると考える。この理念が実践されるには単に肉体的なトレーニングだけではなく、身体的な理念やモラル的な理念が同時に理解されていることも必要だろう。

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運動能力は勇気や利他と共にあるべきである
(Georges Hebert)
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(2012/10/16)


【自然回帰主義ではない】

移動術に見られる身体的な理念「自然環境に身を置くことで人間本来の運動能力を身に付ける」は、ともすれば一種の自然回帰主義とも捉えられかねない。しかし決して文明を捨てて野性の生活に戻ることを目的としているわけではない。この身体的な理念を一つの理想としてみることで、実際の社会に身を置いている人間がその社会の中でどうあり、どうするかという話である。

たとえ自然を模しているにせよ実際に人工的な環境でトレーニングが行われていることからもそのことが言える。根本の理念が原理主義的に実現されることではなく、その理念が忘れ去られることなく移動術とともにあることが重要なのだ。その理念がちゃんと理解されているなら、あとは個人個人の問題である。トレーニングの環境や方法、動作の種類、栄養の取り方、身に付けた運動能力をどう活かすのか、これらは各個人が根本の理念をそれぞれ解釈しそれとの折り合いの中で定めれば良いことだ。

ただ今ここでは身体的な理念のみで考えているが移動術の持つ「精神的な理念」、そして「モラル的な理念」についても同様のことが言えるであろう。それぞれの理念がどのようなものなのかは改めて考えてみる必要がありそうだが、こういった理念との折り合いということも意識して自分の中にある移動術の形を見つめてみてはどうだろうか。

(2012/10/15)


【栄養について】

移動術を実践する上で摂取すべき栄養素を考えたとき、移動術も一般のスポーツと変わることはない。食事もトレーニングの一部と考え、三大栄養素とビタミン/ミネラルをバランスよく取ることが大事である。スポーツ栄養学の観点から、それぞれの栄養素の役割りや必要な摂取量を知っておくこともいいだろう。そして水分補給の大切さ、体温調節だけではなく体内における栄養素/老廃物の運搬作用などにも水分は使われている。また抵抗力も身体能力の一つと捉え、肉体的なトレーニングとともに食事でも病気やストレスに対する抵抗力を高めることを意識するべきである。

ただ移動術の場合よく言われるのが、サプリメントなどは使わず自然の食品から栄養を摂取するということだ。これははやり「自然環境に身を置くことで人間本来の運動能力を身に付ける」という理念が関係しているように思われる。食事をトレーニングの一部と考えれば当然のことなのだろう。さらに2007年に日本に来たParkour Generationsのメンバーたちはジャンクフードを食べないこと、禁酒、禁煙などもあげていた。これらが実際にそれぞれどの程度重要視されているかはわからないが、こういう部分でもやはり前述の理念がみられる。

(2012/10/13)


【クロスフィットについて】

日本のパルクールシーンとも一部で接点のあるクロスフィット、およびクロスフィットゲームについて書いてみる。まずクロスフィットの説明であるが、これは同名の団体が提唱するフィットネスプログラムのことである。クロスフィットではフィットネスが以下のように定義されている。

>”様々な時間域、運動域においての高い運動能力”
※元の説明では「身体能力」という言葉が使われているが、運動能力と同じ意味で使われているようなので今回のコラムでは便宜上「運動能力」と言い換えた。

さらに以下のようにも説明されている。

>”身体の構造上可能な限りの幅広い運動分野において、短時間の無酸素運動、長時間の有酸素運動問わず、すべての時間域で、より重い体外物体、または自身の身体を操ることのできる人"が高いフィットネスレベルを保持していると言える。

そしてクロスフィットによると既存の競技におけるトップアスリートは専門的なトレーニングしかしていないため高い運動能力(フィットネス)を身に付けているとは言えず、未知の状況下に充分に対応できないとしている。その点、クロスフィットは専門的なトレーニングではなくクロスフィットの定めた10個全ての身体能力(※元の説明では身体機能)を高めるため、未知の状況下に対応できる運動能力が身に付くのだという。

ここまでの説明をまとめるとクロスフィットは「万能な運動能力」を理想していることが分かる。そしてそれを人間の身体構造から考えているという点で、前回コラムでの移動術の理想とする運動能力に近いものが感じられる。ただし、その理想とする運動能力を身に付ける方法は移動術のそれとは異なる部分がある。クロスフィットのフィットネスプログラムは実用的な運動動作を行うことで身体能力を向上させ、高い運動能力を身に付けることができるとしているが、その運動動作としてウェイトリフティングが取り入れられている。自重動作や心肺機能を高める運動も合わせて行われているが、専用器具や専用施設でのトレーニングを多く取り入れているという点で移動術とは異なっている。

次にクロスフィットゲームについてだが、フィットネス世界一を決める大会としてクロスフィット団体公式で行われている。予測不可能な未知的状況下での高い運動能力が求められるように、その競技内容は事前に知らされずに行われる。 数日間にわたってさまざまな種類の運動動作を行い得点によって競われるようである。以前、クロスフィットを実践している人に話を聞いたことがあるが、毎回競技内容に新しい動作が加わるため未経験の運動動作をいきなり行わなくてはならないこともあるのだという。また、その人に聞いた話で面白いと思ったエピソードがあるのでここで紹介する。

同じくクロスフィットを実践している友人が後ろ向きに走っているのを見て、その人はこう聞いたのだという「その運動動作は一体どういうときに役に立つんだい?」。するとその友人はこう答えたそうだ「戦地で敵に追われている時に、後ろに向けて銃を撃ちながら逃げるときに役立つよ」

これはかなり極端な話なのだが、その友人が一つ一つの動作が実践される状況を想定してトレーニングを行っているということが良く分かるエピソードだった。自分がこのコラムの一番最初の記事に書いたのが「実践を想定して移動術のトレーニングをする」ということだった。移動術に対する認識も今とは全然違っていた時期に書いたものだが、このエピソードを聞いた時に移動術とクロスフィットの共通点を一つ見つけた気がしたのである。

(2012/10/12-13)
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参考資料:
http://chikaracrossfit.jp/what-is-crossfit
http://www.crossfitasia.jp/about-us.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/クロスフィット
http://games.crossfit.com/


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