移動術でコラム05 [コラムTOP]

注:ここでいう「移動術」はParkour、Freerunnig、Art du Deplacementの全てをさします。

【パルクールとフリーランニングは違うものか】

パルクールとフリーランニングは本来の意味では同じものである。では、なぜパルクールとフリーランニングは違うものであるという認識が生まれ、広まったのか。その原因について考えてみる。

ここでいう本来の意味とは自分の現在の考えでは「PK/FRについて」に書いたものになる。少し長いがこれを使って考察する。

「走る/跳ぶ/登るなどの動作を無理せず安全に行うことを通して身体能力を向上させるトレーニングに、そのトレーニングの中で強い精神を身に付けるという意味が含まれるフランス発祥のスポーツ」

この本来の意味の範囲内でパルクールとフリーランニングを分けるものがあるとすれば、トレーニングに使われる動作の差であろう。つまり「走る/跳ぶ/登るなどの動作」の部分だ。パルクールではこの部分が「走る/跳ぶ/登るという動作」となるだろう。そして、パルクールとフリーランニングの違いでよく挙げられるフリップなど動きを「回る」と言い換えれば、フリーランニングではこの部分が「走る/跳ぶ/登る/回るという動作」となるだろう。

「パルクールとは、走る/跳ぶ/登るという動作を無理せず安全に行うことを通して身体能力を向上させるトレーニングに、そのトレーニングの中で強い精神を身に付けるという意味が含まれるフランス発祥のスポーツ」

「フリーランニングとは、走る/跳ぶ/登る/回るという動作を無理せず安全に行うことを通して身体能力を向上させるトレーニングに、そのトレーニングの中で強い精神を身に付けるという意味が含まれるフランス発祥のスポーツ」

それぞれでこう言い換えたとしても、その差は無視してしまっても構わないくらい些細なものである。なぜなら、本来の意味において動作の種類は重要ではないからだ。もしかしたら、少しでも動作の種類に違いあるなら「回る」の有り無しで区別し違うものとすべきという意見もあるかもしれないが、そんなときは「回る」を他の動作に置き換えてみればいい。例えばモンキーウォークなどの「這う(四足で歩く)」で考えたらどうか。はたしてモンキーウォークの有り無しで区別し違うものとすべきと思うだろうか。もし、そんなことをしようとしたら動作の数だけ区別する名前が必要になってしまう。

では、なぜパルクールとフリーランニングは違うものであるという認識が生まれ、広まったのか。
現在、パルクール、フリーランニングという言葉は本来の意味から拡大解釈されて使われている。拡大解釈とは「トレーニングの結果として習得した動作」や「その動作を連続して行うこと」をパルクールやフリーランニングと呼んでいることである。さらにはそれが本来の意味を伴わない形で広まっているのも事実だ。そして、この拡大解釈こそがパルクールとフリーランニングが違うものであるという認識を生んだ原因なのではないだろうか。

拡大解釈でのパルクール、フリーランニングではその動作の差が顕著になり、それぞれの特徴になってくる。しかも本来の意味が伴わなければ、動作の種類の重要度が増してくる。

【拡大解釈されたパルクールの特徴】
・トレーニングの結果として習得される動作は移動に適したものが多い。
・その動作を連続して行うと効率的に移動するものになる傾向がある。

【拡大解釈されたフリーランニングの特徴】
・トレーニングの結果として習得される動作は見た目が派手なものも多く含まれる。
・その動作を連続して行うとアクロバティックでパフォーマンス性のあるものになる傾向がある。

こうして本来の意味において同じものをさしていたパルクール、フリーランニングという2つの言葉は、本来の意味を拡大解釈した結果、違うのものをさす言葉として認識されるようになったのである。

(2011/02/15-18)


【競技大会の形】

先日、ロンドンでフリーランニング世界選手権が開催された。

2008年から始まったこの大会は今回が2回目となる。前回に書いたコラムはコチラ。この大会や競技化に対する自分のスタンス、考えは1年前からほとんど変わっていない。フリーランニングが発展していく上で競技化というアプローチもアリだと思っている。そしてそれが最初から全てが上手くいくとは思ってはいないし、続けていくうちに試行錯誤しながらより良い競技化の形を見つけていくのがいいと思う。

その一方で競技化に対して懸念を抱く人が存在するのも事実だ。単に主催者が気に入らないという理由で大会を非難している人を除けば、そういう意見があるのも理解できる。Stephane Vigrouxのインタビューでも言われているように、移動術は若過ぎるのだ。自分も競技化というアプローチを行うにはまだ早いのかもしれないとも思う。 しかし実際にもうその流れは起きているし、今更止められるものではないはずだ。それに対して、ただ「やめて欲しい」と言うことが最適なやり方だとは思わない。自分がもし仮にそれなりの立場にいて今の競技化の流れが許せなかったら、「こういう風にした方がいい」と働きかけるだろう。ただ自分はそんな立場にもいないし、今の競技化の流れに重大な問題があるとは思っていないので、どうなっていくのかを楽しみながら見守りたい。

動画をみる限り去年の選手権と比較して、今年は以下の点が改善されていてよかったと思う。

 ・開催場所が暗い屋内から明るい屋外になって開放感があった。
 ・過剰な安全対策のフカフカマットが無くなっていた。
 ・ステージが少し広くなっていた。
 ・Flowを意識している出場者がいて、それがちゃんと評価されていた。

その一方でやっぱこうした方がいいなと思ったことも多々ある。それについては前回のコラムに書いたのとほとんど同じなので割愛する。

次に採点基準が公式HPにあったのでそれについて考えてみる。簡単にいうと以下のように採点されている。

 競技者は予選と決勝(10人)のそれぞれで60秒間フリーランニングを行う。
 4人の審判が「技術困難度」「完成度」「創造性」「流動性(Flow)」を採点する。
 それぞれの採点基準につき25点満点で、1審判あたり100点満点となる。
 つまり4人の審判の合計は400点満点となる。

この採点基準が前回からあったのかは不明だが、主観で採点する一般スポーツとそれほど変わらない基準である。自分はフリーランニングの動きについて主観的評価基準を持っていないので何とも言えないのだが、採点基準に「移動」の要素も入れると今より面白くなると思う。

最後にFR世界選手権以外の大会について書いてみる。ただこれらは必ずしもフリーランニングやパルクールの大会であるとは謳っていない。

一つ目は「Art of Motion」。これは飲料メーカーのRed Bullが主催している国際大会だ。「フリーランニング/フリースタイル・ムーブの競技会」という触れ込みで、2007年10月に初めて開催されている。つまりFR世界選手権よりも1年近く早く始まった大会のようだ。今年は5月に開催された。

二つ目は「PARCOURING WORLD CHAMPIONSHIP」。これはドイツで開かれている「Parcouring」というスポーツの大会だ。 明らかにParkourを捩っているが中身は違うものらしい。2008年は10月に開かれていて、2007年も開かれているはずなので、こちらもFR世界選手権よりも早く始まった大会のようだ。今年も10月に開催される。以前、YamakasiのMalik DioufとCharles Perriereがゲストとしてイベントに参加していた。

こうしてみるとFR世界選手権は後発とも言えそうだ。Art of Motionは競技場のセットや大会のノリがFR世界選手権とかなり近い。現在はこの形が主流で、これを基点に発展して行くのかもしれない。

元がPK/FRと関係なくてもいいなら、フリーランナーが出場している日本のSASUKEやアメリカのNinja Warriorも入れてもいい。だがそうすると何がPK/FRの大会なのか分からなくなるが、特に定義する必要もないだろう。その大会に出たい人が出て、その中での最優秀競技者がいたりいなかったりする。それだけなのだろう。

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ちなみに自分はこういう大会に出たいとも、主催したいとも思っていない。大会というアプローチは大いにアリだと思っているが、自分が実現したい移動術の普及/発展の方法とは方向性が違う。ただSASUKEは生で見て面白かったから、他のも生で見てみたいとは思う。

(2009/08/26)


【初心者講習会について】

1年前にも書いたが、今の日本には経験者が指導役になって初心者に移動術を教える教室が必要なのだ。その思いは今でも変わらない。

そして今回はようやく「1st Step」という初級者向けの講習会を開催することが出来た。この「1st Step」という名称はかつてSTEP MARKSが主催していた講習会の名前を譲ってもらったものだ。

当日は参加者全員が一つの決められたメニューにしたがって同じトレーニングを行なった。ただし、メニュー内容は以前のそれとはかなり違っている。一番の違いは基礎トレーニングに重点を置いたことだ。半分以上の時間を基礎トレ+筋トレに費やした。その分、技術の練習に十分な時間が割けなかったことは今後の課題ではあるが、基礎の大事さを伝えるという今回の目的は達成できた。基礎トレばかりだと参加者から不満が出るかと思ったが、自分の聞く限り「キツかったが、楽しかった」という感想が多かった。

今回の参加者は50人以上。さすがにこの人数で一つのこといっぺんにやると時間がかかる。実際に、順番を待つ時間が多かったし、終了時間も予定よりオーバーしてしまった。これについても今後、工夫が必要となるだろう。

指導は主催者であるPKTKのメンバーが行なった。指導者は参加者と同じメニューをこなしながら、各メニューの最初にトレーニング/技術の説明をし、実際に見本を見せる。トレーニング中は参加者に付いてフォロー、アドバイスを適宜おこない、その以外にも講習会全体の仕切り、体調不良/怪我の予防・対応などなど。事前準備も含めてやるべきことは多かった。それでもなんとかやれたのは、みんながこの講習会を良いものにしたいと思っていたからだろう。

今後この講習会を2〜3ヶ月に1度、定期的に行う。そして問題点をみつけ改善し、ある程度の形になったら開催する頻度を上げていくつもりだ。自分の知る限り、最初から最後までメニューをしっかり決めて指導に終始した講習会/教室が定期的に開催されることは、今までの日本にはなかったと思う。1st Stepをそういうものにしていきたい。

最後に、移動術が普及するには全国各地でこういう講習会が開催される必要がある。まったく同じ内容、メニューである必要はない、初心者が参加しやすいものであればいい。今回の1st Stepが刺激になって各地で講習会開催の動きが起ってくれればうれしい。そしてそれは誰もが移動術を始めやすい、続けやすい環境を作っていくことに繋がるだろう。

(2009/08/12)


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